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【ASF NEWS No.60】& Talk_ともに、学ぶ

鼎談  玉木 聖一×新井 裕子×鈴木 康文

聖学院ASF NEWS No.60 取材日/2022年5月


子どもの興味関心を出発地点として学びに導いていく。そこで芽生えた「学びは楽しい」という価値観はやがて他者のために世界のためにと広がっていきます。

(左から)●玉木 聖一:聖学院中学校・高等学校理科教諭、理科主任、中学1年担任、バスケットボール部顧問。2005年度聖学院高等学校卒業。立教大学大学院理学部物理学専攻博士前期課程修了後、博士後期課程に進学するが学校教員へ転身。現在、学習者中心の学びに力を入れている。●鈴木 康文:聖学院中学校3年生。3歳上の兄の影響で、聖学院幼稚園に入園。聖学院小学校では5年生で児童会副会長、6年生で児童会会長になる。中学校では生徒会に立候補し、2年生では会計補佐。今年度は生徒会副会長になる。また、小学生の時に卓球にハマり、現在卓球部に所属している。●新井 裕子:聖学院小学校、女子聖学院中高、聖学院大学卒業。大学卒業後、他大学の教育学部にて小学校教員免教を取得。聖学院小学校では英語の非常勤講師を務めた後、専任教諭として理科・体育などを担当。現在は6年生を担任している。

――思考力をはじめとする学力の3要素、非認知能力、STEAM…(※1〜3)。かつて教育は、一つの決まった答えに児童、生徒、学生がたどり着くことを求めていました。しかし、現在では明確な答えがない問いに対し、一人ひとりが自分なりの最適解を導き出す力が求められ、教育法は日々進化しています。それは気候変動や新型コロナウイルス、AIによる働き方の変化など、明確な答えがない社会や環境に対応していくためであり、一人ひとりの幸せのあり方も多様化してきたためです。
変わりゆく教育の中、聖学院ではどのような変化が起きているのか、また変わらないものとは何かを、聖学院中学校・高等学校(以下聖学院中高)の玉木聖一先生、聖学院小学校の新井裕子先生、聖学院中高の中学3年生の鈴木康文さんにうかがいました。鈴木さんは聖学院小学校の卒業生で新井先生の教え子です。また両先生は聖学院で学んだ卒業生でもあります。

いつの時代も温かさと居心地の良さがある

ーー聖学院はどういう学校だと思いますか?

鈴木 クラスメイトのことで言えば、教室の隅に一人でいるような生徒をあまり目にしないという印象です。みんながお互いに話しかけます。誰とでも話せるし別のクラスの生徒とも自然と話せます。

新井 私自身も聖学院小学校の卒業生で、自分もそうだったと思います。自分のクラス以外の子ともなんとなく顔見知りでした。男女、学年問わず自然と話していました。聖学院の児童は、誰でも受け入れる雰囲気をみんなもっています。鈴木くんの話を聞いて、それは変わらない点だなと思いました。

玉木 聖学院中高の生徒を見ていても本当にそういう雰囲気を感じます。私が生徒だった時のことを振り返っても温かさがあったと思います。私は高校から聖学院に入りました。入学してみて感じたのは、生徒一人ひとりの発言の温かさでした。自分はここに居て良いと承認されているような感覚です。また先生が声をかけてくれる頻度がとても多かったのを覚えています。話もよく聞いてくれましたし、本当によく見てもらえていると高校生ながらに感じました。

新井 私が小学校から中学校にあがって一番驚いたのは、中高は生徒が中心になって物事を進めているということでした。行事の企画も運営も、すべて生徒同士で考えて話し合って決まっていきました。でも困ったときには、必ず先生がそばで見守っていて相談にのってくれる。そういう温かさがありました。寄り添ってくれる安心感、居心地の良さのようなものです。

行事にも成長のための学びが用意されている

ーー鈴木さんが聖学院中高への進学を決めた理由はなんですか?

鈴木 まず兄、康介が聖学院中高のアドバンストクラスに進学したこと、そして小学校5年生の時に親と聖学院中高の学校説明会や合同説明会に行き、そこで興味を持ったのがきっかけです。印象的だったのは、体験学習がただの行事ではなく本当に学びになっているということでした。糸魚川農村体験学習という宿泊行事の場合、行く前からその土地の歴史、文化などを調べ、SDGsと関連して考え、生徒たちで「その土地の良さを未来に残すには?」というような問いを立てます。その問いの先に体験があるという考え方が、他校と全く異なっていました。そういう説明を聞いて、聖学院中高に行きたいと思いました。

玉木 体験学習は、行けば終わり、行けば解決という行事ではありません。できれば生徒が何かに気づいて、モヤモヤした状態で帰ってきてほしいと思っています。モヤモヤしていると、ふとした時に「そういえばあれ、何だったんだっけ?」と思い出します。そうすることによって深まっていく学びがあります。中学2年生は山に行き、中学3年生は農村体験をします。高校1年生の時にソーシャルデザインキャンプというフィールドワークを行い、高校2年生で沖縄に行き平和について考えます。考える規模が少しずつ大きくなっていくよう設計しています。

自分で選んで自分で学ぶから主体的な学習姿勢が身につく

ーー教員を目指したきっかけと今大切にしていることは何ですか?

玉木 聖学院高校の時の担任の先生がとてもよく接してくれました。その先生のようになりたいという憧れを抱いて教員を目指しました。大学では物理を学び、大学院の博士課程まで研究を続けていました。大学院の時に身につけたことが今教員としての行動の指針になっています。それは「気になる」を大切にするということです。研究者はみんな気になるとか知りたいという興味関心が最初にあり、それを解き明かすために研究をします。気になったことを調べて考え結論を出す。このサイクルが身につけば様々な場面で役に立ちますし、勉強に置き換えることもできます。ですから生徒にはいろいろ気にしてほしい。そして調べてほしいです。調べる時に、どう調べたら良いのかも自分で考えられるようになったら素晴らしいと思います。
聖学院中高には今「Learner」という考え方があります。教えられるのではなく、自ら興味関心をもって探究する学習者のことです。研究者の姿勢と同じで本当に良い指導目標だと思います。そして、その「Learner」の入り口として聖学院中高では自学という学習法を取り入れています。

鈴木 自学は、自分が興味を持ったことを自宅で調べる勉強です。教科に限らず好きなことをできるので、自分の興味関心を突き詰めて学べます。帰りのホームルームで「できたこと生徒手帳」という手帳にその日何をやるかを書き、そのスケジュール通り学ぶので時間管理もできます。
聖学院小学校にも自学はあります。高学年の時は英検の勉強をしていました。自発的に机に向かって勉強するきっかけとなったのが自学です。

新井 やらされるのではなく自ら選ぶ。選んで学ぶ主体的な姿勢を身につけるために小学校でも自学を取り入れています。今はインターネットが普及している分、子どもたちの探究心も強くなってきていると感じます。全員が同じ勉強をするのではなく、その子の興味にあわせて時間を使っていくことが大事だと思います。

玉木 研究で一番大変なのは最初の「何を調べるか」を自分の中から出すことです。興味があることや気になることに常日頃から目を向けていないと出てくるようにはなりません。今、聖学院小学校にも自学があると聞いて驚きました。小学校からそういう積み重ねがあるというのはとても素晴らしいことです。

変わりゆく教育法と変わらないもの

ーー新井先生が教員になられた経緯を教えてください。

新井 最初は教員を目指したというよりは英語が好きで英語の勉強をするために進路を選んでいました。ただ当時は英語を使う職業をあまり知らなかったので英語だけで進路を選ぶことに迷いもありました。そんな時に小学校や中高でお世話になった先生方から「教育学を学んで教員になれば英語を生かせる」と教えていただき教員を目指すようになりました。大学は聖学院大学の欧米文化学科に進学しました。大学のゼミの授業は英語で行われて、1年生の時、アメリカ人のネイティブの先生が担任だったこともあり、学生生活の会話の半分以上が英語でした。聖学院大学では留学も体験でき、英語漬けの充実した4年間でした。その後、教員としての学びをもっと広げたいと思い、別の大学の教育学部に入りました。教員免許取得後に聖学院小学校からお声がけいただいて、母校の教員になりました。
今は教育法の変化も早い時代です。教育学を学んで教員の資格をとったらそれで終わりということはありません。私たち教員も学び続けることが必要だと感じています。私は2つの大学に通い、一方でネイティブの先生を通してアメリカの教育法を体験し、もう一方で体系立てた日本の教育法を学びました。一見、遠回りをしたように見えるかもしれませんが、その時間を通し、多角的に教育法を学ぶ大切さを実感しました。

玉木 聖学院中高の先生方も学習法や指導法を研究し続けています。アクティブラーニングを取り入れたのも早かったですし、STEAM教育やICEモデル(※4)を取り入れています。皆さん「生徒にとって何が一番良いんだろう」と探究し続けていてとても勉強熱心です。

ーー今と昔の教育法で大きく変わったところはどこですか?

新井 私が子どもの頃は、用意された学習に子どもたちが乗っかっていくイメージでした。今は、先ほどの「自学」でも触れたように、子どもたちが自らの学びを見つけ、教員がサポートするイメージです。変わったところがある一方、教員の熱量と、いつも子どもたちに寄り添う姿勢は変わらないと思います。

玉木 新井先生がおっしゃる通り、教育法は本当に変わったと思います。かつては1つの決まった答えをどう導き出すか、ということが中心だったのに対し、今は一人ひとりの考え方や価値観を問うことが多くなりました。また「生徒は必ず良いものを持っている」という想いは変わっていないと感じます。

新井 最終的に人に仕えていくために必要なことを学ぶというところはずっと最初から変わっていないと思います。神様がどういう世界を求め、そのために我々は学んだことをどう使っていくか。そこが聖学院の教育の原点なのではないでしょうか。だから教員は誰のことも見放さないし、賜物をその子と一緒に探し続けていくのだと思います。

友だちとともに、学ぶ 子どもたちとともに、先生も学ぶ

ーー鈴木さんはこれからやってみたいことや将来の夢はありますか?

鈴木 具体的なことはまだ考えていないのですが、中学校での経験や学びをいかして高校で何か新しいことにチャレンジしたいと思っています。

新井 背伸びせず、落ち着いて、着実に一歩一歩進めていくのが鈴木くんらしいですね。

玉木 鈴木くんは生徒会副会長ですが、生徒会の楽しいところはどこですか?

鈴木 自分の行動で、生徒みんなの学校生活を楽しくできるところにやりがいを感じています。

新井 鈴木くんが先ほど「聖学院にはひとりぼっちになる生徒があまりいない」と言っていたのがとても印象的です。小学校から鈴木くんを知っている私は、まず彼自身がそういう空気を作り出せる生徒だと感じています。鈴木くんは意気込むわけではなく自然と人のために行動できる、そういう特徴があると思います。

ーー教員としての思いや大切にしていることを教えてください。

玉木 僕は生徒に「研究できる人」になってもらいたいと思っています。実際に研究者になってほしいということではありません。興味は自分の感情が動いた時に湧いてくると思っています。難しいことですが、生徒には、自分の感情の揺れに気づいて「あれ?」と思って調べ行動できるようになってほしい。そして学びの中で培った知識を、次は理論に落とし込む、そういうサイクルが自分の中で作れれば、どんな分野でも活躍できると思います。

新井 小学校では、自学で学んだことを友だちと教えあう姿が増えてきました。子どもたちは自ら学んだことを自分だけのものにせず、共有して視野を広げています。その視野は、中高でさらに広がっていくと思います。例えばSDGsに触れて世界に目を向けるようになるのもその一つだと思います。私たち教員も立ち止まらずに、子どもたちと同じ気持ちで世界へと視野を広げていかなければいけないのではないかと感じています。

(取材日/2022年5月)

※1 学力の3要素
「知識・技能」「思考⼒・判断⼒・表現⼒」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」の3要素を指す。
(出典:Kei-Net/学力の3要素 https://www.keinet.ne.jp/exam/basic/term/ka_05.html

※2 非認知能力
テストなどで数値化することが難しい内面的なスキルを指す。具体的には「目標を決めて取り組む」「意欲を見せる」「新しい発想をする」「周りの人と円滑なコミュニケーションをとる」といった力のこと。
(出典:embot/非認知能力とは https://www.embot.jp/news/36501

※3 STEAM教育
科学・技術・工学・芸術・数学の5つの英単語の頭文字を組み合わせた造語。
科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)。アート(Art)、数学(Mathematics)の頭文字を組み合わせた造語。5つの領域を対象とした理数教育に創造性教育を加えた教育理念。知る(探究)とつくる(創造)のサイクルを生み出す、分野横断的な学び。
(出典:STEAMJAPAN/STEAM教育って? https://steam-japan.com/about/

※4 ICEモデル
カナダで開発・実践されてきた評価モデルで、IはIdeas(基礎知識)、CはConnections(つながり)、EはExtensions(応用)を意味します。問いに対してどのように答えるかによって、I・C・Eのどの段階にいるかを評価する視点。
(出典:ALbase/ICEモデルとは http://www.t-netsurf.com/education/icemodel/index.html