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&Talk 図書館のチカラ

座談者プロフィール

大川 功

●聖学院中学校・高等学校国語科教諭 ●聖学院中学校・高等学校図書館部長

2013年より図書館教育の改革に取り組む。動的図書館としてさまざまな企画を立ち上げ、3年で来館者数を4倍、貸出冊数を3.5倍にした。授業や図書館活動は多くのメディアで紹介されている。専門は近代日本文学。

寺﨑 恵子

●聖学院大学人文学部児童学科准教授

2013年度より聖学院大学総合研究所子どもの人格と絵本研究プロジェクトに参加。子ども-大人-絵本の三項関係論と、自然誌興隆のただ中に生きたジャン=ジャック・ルソーの言語起源論・教育思想とをパラレルに考察しているところ。

宮本 聖二

●立教大学大学院教授 ●Yahoo!ニュースプロデューサー

早稲田大学法学部卒業後、NHK入社。沖縄放送局で基地問題や沖縄戦の番組などを制作。報道局おはよう日本、編成局などを経て、「戦争証言プロジェクト」、「東日本大震災証言プロジェクト」編集責任者となる。

 

絵本のもつ可能性

大川
聖学院中高では生徒が図書館で読み聞かせを行っています。※1学校説明会に参加される方の中に、受験生の弟や妹を連れてくる保護者がいます。小さい子どもたちは試験や資料の話に飽きて泣き出します。そうするとお母さんが子どもをつれて申し訳なさそうに講堂から出ていくんですね。その姿を見て、学校説明会の間、小さい子どもたちを図書館であずかって絵本の読み聞かせをしてはどうかと思いました。せっかくなので生徒に読み聞かせをさせたら面白い。そこで募集をかけ、6年前から生徒による読み聞かせが始まりました。絵本を選ぶとき生徒の中から「この表紙、覚えている。これ、(小さいときに)読んでもらった」と声があがったのが印象的でした。
最初は、生徒の自己表現としての場と、小さい子に聞いてもらえる場があれば、お互いによいのではと思い、始めました。最近はその先の段階で、生徒たちが10年、20年経て、読み聞かせのできるお父さんになって欲しいと考えています。そのために中1から高3まで全員で取り組んでいます。読み聞かせの定義は色々ありますが、そこはあまりこだわらずライブ感を大切にしています。ただ読むのではなく、次のページがどうなるか子どもたちに問いかけながら進めます。予想外の答えが返ってくることも多々ありますが、否定せずに「それも面白いね」と言いながら本をめくっていきます。参加した生徒の中には、自分を表現するのが得意ではない子もいたのですが、こうしたやり取りができているのを見ると、絵本の広がりを切に感じます。

寺﨑
読み聞かせではお互いに声のやり取りが自然に起こって読みが共有されます。学生たちが保育園でのボランティアで読み聞かせの機会に恵まれたときのことです。『おおきなかぶ』(A.トルストイ再話、内田莉莎子訳、佐藤忠良画、福音館書店、1966年、大型絵本 1998年)を選んで、「うんとこしょ どっこいしょ」のところを子どもたちにも言ってもらう演出を考えました。何度も予行練習をして臨んだ本番では、学生が呼びかける前に、絶妙のタイミングで子どもたちの方から「うんとこしょ、どっこいしょ」と大きな声があがりました。意外な展開に学生たちはびっくりしていましたが、次のくり返しからは、子どもたちの声に合わせて本を揺らし、一緒に〈大きなかぶ〉を引っ張りました。「うまく読まなくては」という緊張が解けてうれしくなったそうです。子どもと一緒に読むのは楽しいです。

 

 

 

 

 

 

 

大川
読み聞かせは同じことは二度と起きないライブ感が魅力ですね。宮本先生には、生徒たちの読み聞かせを取材していただきましたが、感想などありますか?

宮本
長く読み聞かせをやっている高学年の生徒が自信をもって、下の学年の生徒にアドバイスをしているのが印象的でした。その際、決して否定はしないのが、大川先生のご指導を受け継いでいて実に素晴らしいと思いました。また生徒が、読み聞かせを通して幼い頃読んでもらった絵本に再び出会うというのが、すごく良かったです。

大川
夏に仙台で絵本の協会が主催する勉強会に参加しました。そこで聞いた話ですが、昔、お子さんに読んであげた本を、そのお子さんがお孫さんに読んであげているそうです。お子さんからお孫さんに時間を経て絵本がつながって行く。本当に素晴らしいですね。

寺﨑
世代を超えた交流になりますね。今、大人たちのあいだでも絵本は読み親しまれています。「あ、そういえば…」と過去の情景がよみがえってくるようです。絵本に癒やされたという声も聞かれます。欧米では読書療法が認められていますが、日本でも福祉的な視座での読み聞かせ研究が進められています。高齢者との絵本の読みあい、また、受刑者の更生支援としての読みあいも行われています。絵本を読むことが、記憶に潜む内なる子どもとの邂逅になり、自分自身の生き方や他者との関係性の更新になる。絵本には、なにか不思議な力があるようです。

大川
子どものものという限定を解除したところに、更に可能性が広がりますね。

※1 聖学院中学校・高等学校図書館の活動は、図書館HPからご覧いただけます。
デジタルアーカイブと図書館の役割

大川
110余年続く聖学院の歴史をしっかり残していきたいと思い、戦前からの資料をまとめてデジタル化しています。デジタルアーカイブの専門家である宮本先生にアドバイスを頂くことで、学校の歴史だけではなくて、日本の庶民の生活に関することも聖学院の資料から引き出せるかもしれないと思っています。

宮本
デジタルアーカイブは、大きく言うとインフラであり、そこにあるコンテンツやその見せ方、あるいはそれを使って何ができるかです。例えば図書館は本が整理されていますが、今までは足を運ばないと欲しい情報が見れませんでした。今はデジタル技術の発展で、体調の悪い人でも家に居ながら図書館の所蔵物を見る事ができます。大川先生のように学校の歴史をまとめる動きが広がれば、各学校のアーカイブがつながって、教育やその周辺の全体像が浮かび上がってくると思います。
文科省の組織である国立教育政策研究所には、図書館学の研究者で統括研究官をしている江草さんという方がいます。その方のもとで日本の明治以降の教科書全てをデジタル化していて、公開もされています。例えば昭和16年、私たち日本人は日中戦争が泥沼化していた中、新しい戦争を受け入れました。なぜそんなことをしたのだろうと今は思いますよね。それを知るにはその時点で人々がどういう教育を受けて、どんなメディアから情報を摂取して、そこにどういうものが書かれていたのかをずっと見ていく必要があります。デジタル化が進んでいますが、永らく保管されたコンテンツを共有しようという動きは案外ないのです。ですから貴重なコンテンツ資料にはプラットフォーム化を提案して、共有を呼びかけ各所に働きかけています。

寺﨑
「今」を生きて未来を構想しながら、同時に、「今」に過去が流れこんでくるところにアーカイブがあると思います。今のことが次々に消え去っていくようでも実はそうではない。今はわからなくても、後でふと「あれはそういうことだったのか」と解ることがあります。記録されたことに今を重ねて読んでみる。今を生きる自分のなかに、生きられた時間・歴史をよんでみる。私たちの記憶を喚起して考える助けになるアーカイブが必要だと思います。

宮本
サーバーの容量も増えましたし、動画も含めて整理して保管できる時代になりました。しかし大川先生のように「デジタルアーカイブ化したらみんなで共有できるよね」と思う人を増やさなければいけません。それがこれからの課題です。

大川
貴重品のように鍵をかけてしまうのは、意味がないですね。それも我々が生きていく為の教材であって、人間、同じ過ちを犯しますしね。世代が違っても、この雰囲気は昔にもあったんじゃないかと疑問をもち、そういう時に現物が見られるとか、こういう時は、自分で抑制した方がよいと判断できます。アーカイブは教材として大いに可能性のあるものだと思います。

 

 

 

 

 

 

 

寺﨑
図書分類法からはみ出す絵本は、検索が難しいです。作者名や書名を忘れてしまっている場合や、作品のイメージや内容もあいまいなことがあります。

宮本
理想としては、図書や書籍、絵本も全文検索ができる事ですが、出版社との問題があります。全ての書籍の全文がデジタル化されていけば、こんな場面があったというだけで検索ができるようになります。Googleブックスは、そうしたことをやろうとし、グーテンベルクの活版印刷以来の新たな革命と言われています。色々なところに著作権の問題(複製権や公衆送信権)はありますが、著作権の切れたものは、パブリックドメインとして、全文ファイル化されていくと思います。これからネットが制御しなければならないのは、信頼できるデータを一つの窓口からしっかり検索できるようにすることで、「ジャパンサーチ※2」というポータルでは、日本の文化資源(特に書籍、美術など)を検索できます。まだベータ版ですが、きちっと機能してくれば、ネット上の危うい情報コンテンツとの差異化が図れるでしょう。そういった時代を実現しなければいけないと思っています。

寺﨑
いわゆる人工知能は、そこで活躍できますか?

宮本
そうですね。今はGoogleでさえも検索に関しては検索エンジンというロジックしか選択がないので、信頼できないコンテンツも上位に表示されることがあります。そういう精度の改善はA.I.の発達で加速するかもしれません。A.I.を使わなくても現段階では大川先生の作ったアーカイブのように、裏付けの取れたきちっとしたものだけを結ぶという手段もあります。そのためにはポータルの下にアグリゲーターというデジタルアーカイブを判断する人が必要になります。

寺﨑
人の目で精査する必要があるということですか?

宮本
そうですね。各分野の良質なアーカイブを集めるアグリゲーターがいて、彼らが集めたアーカイブをさらに一つに結んだポータルエンジンを入り口とする構造です。ヨーロッパではEUが中心となって、文化財や文化資源を一つの入口から見せましょうと、数年前から取り組んでいます。こうして徐々に無法地帯と思われがちなネットの世界が整理されていってます。

※2 ジャパンサーチは、書籍等分野、文化財分野、メディア芸術分野など、さまざまな分野のデジタルアーカイブと連携して、我が国が保有する多様なコンテンツのメタデータをまとめて検索できる「国の分野横断統合ポータル」です。また、ジャパンサーチが集約したメタデータを、検索以外にも、利活用しやすい形式で提供し、コンテンツの利活用を促進する基盤としての役割も果たします。
(出展:ジャパンサーチの概要はこちら)

歴史をつなぐためにアーキビストの育成を

寺﨑
ライブ感が要となる絵本の読み聞かせや、即興性の強い遊びなどのアーカイブ化はどうでしょうか?遊ばれなくなれば遊びはそのまま消失します。厳密な記録でなくてもよいので、保存して次の世代に伝えていきたいところですが、難しそうですね。

宮本
子供の遊びで言うと童歌は、NHKと東京藝術大学が、1940年くらいから50年かけて北海道から沖縄奄美までのものを音源として収集、保存しました。保存されたものは『日本民謡大観』という本として発表されています。音源自体もレコードやCDとして一部の地域を除き発表されました。遊びに関しては、『日本こどものあそび大図鑑』といったものが20数年前に出て話題になりました。こういうものこそデジタル化するべきだと思います。それと同時に童歌の音源のデジタル化も組み合わせてアーカイブ化を進めるとよいと思います。しかしなかなか意欲を持ってやる方が現れない。
私たちがやらなければならないのは、アーキビスト(あるいはライブラリアン)の育成ですね。アーカイブは、それがどう役立つかまで想像してキュレートをしてあげないと、ただのデータベースになってしまいます。利用者が限られてしまい広がりません。そのためには地域や公民館、図書館で活動し、コンテンツを採取、保管し、メタデータもつけられるスキルが求められます。アーキビストを職業として成立させる必要があると思います。

 

 

 

 

 

 

 
 
大川
今日お話を伺っていると、「つながる」という言葉がキーワードかな、と気付きました。それを形にして、聖学院の中に博物館を作れないかと思っています。一つは常設展として歴史的なものを現物を含めて年表で辿ります。もう一つは、聖学院に関わる人が今夢中になっている物を順番に一定期間展示していくものです。大学や大学院、女子聖学院、聖学院中高、小学校、幼稚園と色々な方が関わって、ここに来れば聖学院全体の歴史がわかり、ある学校のこの人の興味を持っている物が見られる。そんなつながりの場を持ちたいですね。

寺﨑
散在する点が色とりどりの線になってつながっていく。聖学院の図書館のネットワークがつながると良いと思います。

大川
聖学院中高と女子聖学院中高と大学とは本の相互の貸し出しができるようになっていて取り寄せたり送ったりしています。

寺﨑
さらに交流が深まって盛んになると、面白いですね。

大川
寺﨑先生の学生の読み聞かせのように、こちらの予想を超えるような何か化学変化が起こることを期待します。

図書館のチカラ 後編はこちら

 

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