1. HOME
  2. 幼稚園だより
  3. 先生のことば
  4. 園だより「緑のオリーブ」

先生のことば

「音楽に生かされて」

画像の任意のタイトル  ベートーヴェンは「月光」や「第9交響曲」の作曲者として、誰もがその名前ぐらいは知っている、とても有名な音楽家です。ベートーヴェンは生涯にわたって数多くの優れた作品を後世に残していますが、誰の人生にも幾つかの転機があるのと同様に、彼の生涯にも多くの試練が待ち受けていました。その中で最も大きかったのは、耳疾により聴力を失ってしまったことでしょう。これは、とりわけ作曲家にとっては致命的なことであり、彼はその絶望感とそこから必死に立ち上がろうとする思いを「ハイリゲンシュタットの遺書」にしたためています。

 ところで、有名な曲かどうかは別にして「第9交響曲」を初めとするベートーヴェンの真の傑作は、彼がその試練を受けとめた後に、絞り出されるようにしながら次々に生み出されてくるのです。私が先日のリサイタルで弾いた「ピアノソナタ作品110」も含めたそれらの作品は、人生に対する絶望ではなく、もっと深い、或いは手は届かないけれど遥か先に確かにある希望への、激しい憧れからほとばしり出る美しさと力強さに満ちているように思うのです。

 ベートーヴェンは物理的な昔を聞く力を失いましたし、その事実は作曲家としては絶望感を伴うことも理解できるのですが、しかしこのことによって彼は、大きな苦悩を伴いながらも、事実としての音を聞くことから解放され、心の中に響く真実な音楽のなかに自由に生かされたのではないかと、私は思うのです。このことを本人でもない人間が、恵み、という一言で表すのは、あまりにも切なく乱暴で憚られるのですが、私はステージの上で、ベートーヴェンの息づかいに、ほんの一瞬、触れたように思いました。

副園長 村山 順吉

先生のことば一覧ページへ戻る
▲ページTOPへ