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2006年12月20日

聖学院小学校クリスマス礼拝 説教

12月16日に行われた聖学院小学校クリスマス礼拝・井本晴雄先生(聖学院中高聖書科教諭)のお話をここにご紹介します。


説教題 『最高のクリスマスプレゼント』
聖 書 ルカ伝 6章38節

「与えなさい。そうすれば、あなたがたにも与えられる。押し入れ、揺すり入れ、あふれるほどに量りをよくして、ふところに入れてもらえる。あなたがたは自分の量る秤で量り返されるからである。」

 クリスマスには不思議なことがあるものです。これからお話するのは実話です。アメリカで本当にあったお話しです。ワシントン州レッドモンドという町の郊外で、居心地のいいトレーラーハウスに引っ越したばかりの家族のことです。その家族には息子で末っ子のマーティという8才の男の子がおりました。
 8才のマーティは12月になり、家族の他の誰よりも張り切っていました。ブロンドでとっても人なつっこい子どもでした。だれかに話しかけられると、子犬のように首をかしげて見上げる奇妙な癖がありました。でも、実はこれは、このマーティの左耳が生まれつき聴こえないからです。しかし彼はそのことで不平を言ったことはいままで一度もありません。

 お母さんはある日、このマーティが何か隠し事をしているのに気づきました。お母さんはちょっと心配でしたが、しばらく様子を見ることにしました。それは、マーティはいつもと変わらず朝起きてベッドもきちんと直しますし、夕食の手伝いも一生懸命してくれるからです。また、もらったお小遣いは1セント、10円くらいでしょうか、1セントも使わず貯金しているみたいだったからです。でもお母さんはこのマーティが何を隠しているのかまったくわかりませんでした。でもその秘密は、友だちのケニーになにか関係がありそうです。
 ケニーとはマーティの一番の友だちでした。この春に友だちになったばかりですが、それからというもの二人はずっと一緒でした。マーティはケニーと近くの小川や原っぱでカエルを捕まえたり、リスにピーナッツをやったりしていました。
 マーティの家族はそんなにお金持ちではありませんでした。切り詰めた生活をする毎日でした。でも何とかお母さんのパートから得る給料で、工夫をこらせば、子どもたちにそんなにみじめな思いをさせずにやっていくことはできました。でも、ケニーの家はお金にとっても困っていました。ケニーの家はケニーともうひとりの子どもにお腹いっぱい食べさせたり、暖かい服を着せてやることさえ満足に出来ないようでした。そんな風でも、ケニーの両親はきちんとした、とてもよい人たちでした。
 ある日マーティの家で、マーティとケニーは座ってお母さんがツリーを飾るのを手伝っていました。がやがて、ふたりはひそひそと話し始めたかと思うと、もうふたりの姿は見えなくなっていました。二人は裏口から外に出て、牧草地の周りに張り巡らしてある電気フェンスの下を用心してくぐり、牧草地に出て行きます。ケニーの家はこの牧草地をはさんで向こう側にあったので、ふたりはいつもそこを行き来していたのでした。でもお母さんはちょっと心配でした。動物用の電気フェンスとはいえ、人間が触るとやけどをしてしまうからです。
 ある日お母さんが目のまえに迫ったクリスマスのために台所でクッキーを焼いていました。そこにマーティが顔を出しました。マーティは何ともうれしそうで、そして誇らしげな様子でこういいました。「ママ、僕ねケニーにクリスマスプレゼントを買ったんだ。見たい?」お母さんは、マーティが何となく隠し事をしていたのはこのことだったのかと思いました。「ママ。プレゼントはね、ケニーがずっと欲しがっていたものなんだ。」そういいながら、マーティはタオルでていねいに手を拭いてから、ポケットから小さな箱を取り出しました。そのふたを開けると中にはポケットコンパス、方位磁石が入っていました。マーティはお小遣いを全部貯金してそれを買ったのでした。
 お母さんは「すごいわね。マーティ。」と言いながら、ちょっと困ったことになったと思いました。なぜならお母さんは、ケニーの家がお金に困っていることをケニーのお母さんがどう思っているか知っていましたし、ケニーの家では家族の間でさえプレゼント交換が難しいということも知っていたからです。ですからケニーの家では、だれかに贈り物をしたり、だれかとプレゼントの交換をするということはできなかったのです。ましてや、お返しの出来ないプレゼントを子どものケニーが受け取ることはお母さんとしてはなんとも複雑な気持ちになることは考えてすぐにわかりました。
 そこでマーティのお母さんは、ケニーの家がお金に困っていること、だからそんなプレゼントをもらったらケニーのお母さんが困ってしまうことなどを、言葉を選びながらマーティに、ていねいに伝えました。マーティはお母さんの話しを聞いてちょっと元気をなくした顔をしましたが、すこし考えて「わかったよ、ママ。じゃあ秘密にすればいいよね。そうすればマーティのお母さんだって僕からだってわからないんだから。」マーティのお母さんも「そうね」としかいえませんでした。
 クリスマス・イヴの日は朝から冷たい雨が降っていました。それはまるでマーティのお母さんの気持ちをあらわすかのようでした。雨は夜になってもいっこうに止む気配がありませんでした。雨ほどクリスマス・イヴに似合わないものはありません。もしあの日も雨だったら、東方の博士たちはどのようにしてやって来たのでしょうか。マーティのお母さんは台所で最後の料理をしていました。オーブンの中のハムとパンの焼け具合を見ていると、マーティがこっそりとドアを開けて出ていくのが目に入りました。パジャマの上にコートを着て、真っ赤な包装紙で包んだ小さな箱を大事に抱えています。中にはあのケニーへの贈り物のポケットコンパスが入っているのでしょう。
 マーティは雨でぬかるんだ牧草地を通り抜け、庭を通ってケニーの家の前に着きました。マーティは気づかれないように抜き足差し足で玄関の階段を登りました。雨で濡れた靴がぐしゅ、ぐしゅっと音をたてます。そしてそおっと家の戸を少しだけ開け、そこからあのコンパスの入った箱をそっと家の中に置きました。そしてまたそっと扉を閉め、大きく深呼吸をして、ドアのブザーに手を伸ばし、力一杯おしました。
 マーティは急いで向きを変え、一目散に引き返しました。ケニーに見つかってはもともこもないからです。階段を一気に駆け降り、庭を駆け抜け、牧草地を、とその時、暗闇に一瞬光が見えました。なんとマーティは慌てていて、あの動物用の電気フェンスに思いっきりぶつかってしまたのです。マーティはそのショックで濡れた土の上にひっくり返ってしまいました。マーティは目を白黒させて気絶していました。が、やがて体がぴくぴくと動き、あえぐように息をすると、ゆっくり、ゆっくり、やっとの思いで我が家のドアまでたどり着いたのです。マーティは、自分の身に何が起きたのかよくわからないままで、とってもおびえていました。
「マーティ、どうしたの?」
「フェンスのことを忘れていたんだ。ぶつかってひっくり返っちゃった。」
お母さんは息子の泥だらけの体を抱き寄せました。マーティはまだふらふらしていました。電気フェンスにぶつかったのでしょう口から左耳にかけて、赤い傷がみみずばれのようになっています。お母さんはとりあえず傷口を消毒し、ホットココアを作ってやりました。マーティは間もなく元気を取り戻しました。そしてベッドに入り、毛布を掛けてもらうと、すぐうとうとし始めました。が、そっと目を開け小さな声でこうつぶやきました。「ママ、ケニーに見られなかったよ。絶対大丈夫。僕だってわからないはずだよ。」

 お母さんはその夜ベッドの中で悩みました。クリスマス・イヴだというのに悲しくて、納得がいかない気持ちでした。なぜこんなことが起きたのか。小さな子どもには残酷すぎると思ったからです。しかも神さまがわたしたちに望まれること、すなわち与えること、それも名前を伏せて、人に知られず与えることをした子どもに起こってしまったからです。お母さんは程んど眠れず朝を迎えました。しかしその翌日お母さんはこの疑問に対する答えを神さまから頂くことになります。
 次の日の朝には雨も上がり、気持ちのいいクリスマスの日でした。マーティの顔のやけどはまだ痛々しく見えましたが、幸い傷はそれほどひどくないようでした。朝、マーティの家族のみんながクリスマスツリーの下に置かれたそれぞれのプレゼントを開き終わったころ、案の定ケニーがやって来ました。お母さんはちょっと複雑な気持ちでしたが、ケニーのはち切れんばかりの笑顔を見て、心が落ち着きました。ケニーは一刻も早くマーティにコンパスを見せたかったのです。そしてその贈り物が、贈り主不明で、とっても不思議なプレゼントであることを息もつかずに話してくれました。その様子からケニーがマーティのことを疑っていないことはわかりました。とうのマーティは終始にこにこ顔でケニーの話しを聞いています。その小さな顔からは笑みがこぼれ落ちんばかりでした。
 その時お母さんはあることに気づきます。ケニーとマーティは身ぶり手ぶりを加え、一生懸命それぞれのクリスマスの出来事について話していました。でもケニーが話す時、マーティはいつものように頭を傾けていなかったのです。その姿は、あたかも聞こえるはずのない左の耳でケニーの声を聞いているかのようでした。
 それからしばらくたって学校の保健室からマーティのお母さんに連絡がありました。それは「マーティの耳は両方とも正常です。」というものでした。
 マーティの聴けなかった耳がどのようにして回復したのかはわかりません。担当するお医者さんは、電気フェンスによるショックのためではないかといいます。そうかも知れません。でもお母さんにとってそんなことはどうでもよかったのです。ただただお母さんにとって感謝だったのは、あの雨の降るクリスマス・イヴの夜行われたすばらしいクリスマスのプレゼント交換を見せていただいたからでした。お母さんも、そしてわたしたちも、その夜、ケニーの家の庭先で、心を込めたマーティのプレゼントと、そしてそれをもらってもお返しの出来ないケニーに代わって、神からマーティに与えられたすばらしいプレゼントを、忘れることが出来ないのです。

投稿者 admin : 2006年12月20日 17:54